強引社長に捕獲されました!?
「今月の、……分、なんですけど」

「………………あれ?」
「あの、それが精いっぱいで……」
「えー?」
「もう少し待ってもらえませんか?」
「は?」

二十時を過ぎた頃、人通りのない路地裏でいつものように封筒を差し出す。
一人の借金取りが、いつものように煙草の煙を吹きかけた。

「ケホッ」

私は少しむせてから意を決して頼み込んだ。

「お願いします、もう少し待ってください。バイト時間も増やしたし、時給も上がったので……!」
「んー。そうじゃないんだよねー」
「え?」
「イイトコ紹介するって」
「なっ!?」
「そんな真っ当に働いて返せる額じゃないんだから。こっちで稼いだほうが早いでしょー」

まるで身体を舐め回すかのように見て、二人は私を取り押さえる。
抵抗しても敵うわけもなく、逃げられないと悟った私は、今まで頑張ってきたことがなんの意味もなかったことを思い知らされた。

気持ち悪くて怖くて、声が出ない。

「泣いても無駄だよ。貸した金は返してもらう」
「……っ」
「女で良かったじゃねーか。恨むなら親父さんを恨むんだな」

こんなことになるなんて……。
これからの自分の運命を想像し、絶望の淵に突き落とされた私は、生きる気力も失いそうだった。


誰か、助けて。


すがれる人も助けてくれる人も、私には誰一人いないけれど、震えて声が出せない私はひたすら心の中で叫んだ。





「その子、いくら?」





「なんだぁ?」
「買いたいんだけど」
「ははは!兄ちゃんなに言ってんだ?」


「だから。その女の子、いくらなの?」


えっ、ーーーー社長!?


「五千万の借金の形でね、ウチとしてもそう簡単には手放せないんだよ」
「……そう、じゃキャッシュで」
「はぁ?」

突然現れた社長は、借金取りに銀色のアタッシュケースを投げつける。
弾みで開いたその中には、たくさんのお金の束が入っていた。

「!?」
「とりあえず領収書もらえる?」

群がる二人に向かって、冷ややかに言う。

「完済証明書は後で取りに行かせるから。違法な金利や取り立てを通報されたくなかったら、きちんと用意しておけ」
「なんだと!?」
「借金は返したんだ。……なにか問題あるのか?」

社長の冷たい視線が突き刺さる。
なにが起きているのかよくわからなくて、解放された私は混乱したまま立ち尽くした。


たくさんのお金、私、借金がなくなったの?
借金取りと、一緒に行かなくていいの?
社長、買うって…………?

あぁでも、そんなことより。

お腹すいた。
眠いよ。

疲れたよ。



ぐるぐると目が回り出すと、頭の中がガンガンと鳴り響いて、激痛に耐えられなくなった私は、そのまま意識を手放した。
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