強引社長に捕獲されました!?
「しゃちょ、じゃなくて。透さん……」


「あーいいね、それももらおう」
「ありがとうございます」
「ついでにこの辺も一緒に」
「かしこまりました」

ここは高級ブランドショップが立ち並ぶ、ブティックの一角。
入店して以来、これの繰り返しだ。

「……透さん」


「これはそのまま着ていく」
「ありがとうございます」


「透さんっ!」
「……なんだよ。好みじゃないの?」
「そうじゃなくて」

じゃいいよな、と。
次々にお会計へ持ち込まれるのは、私が着るための洋服。

庶民以下の私が立ち入ったことなどない、というか門前払いをくらいそうなお店に透さんは当たり前のように歓迎された。
そこで恐ろしいほど大量に、恐ろしいほど高級そうな洋服やアクセサリーを即決していく。

私なんて、触ったことのない生地に手が震えているというのに。

「私こんな素敵な服、初めてなんですけど……」
「いいじゃん」
「高すぎじゃないですか……?」
「はぁ?」
「私なんて三百円のティーシャツで十分ですよ」
「そんな安いシャツあるのか?」
「……私にはそのくらいがお似合いだということでですね」
「あぁ、大丈夫。金なんか取らないから安心して」
「……っ」

そういう意味じゃないのだけれど。

桐谷社長の隣にいても恥ずかしくないような身なりをする必要があるのだろうか。
ずっと側にいる、という意味がいまいちわかっていない私は、為す術もなく着せ替え人形のようだった。



「よし、次は……」
「まだあるんですか!?」
「……うーん」

透さんは眉を寄せながらジッと私の顔を覗き込む。
カッコイイ顔のドアップに改めて頬を染めると、髪の毛をワサワサと撫でられた。

「……?」



次に連れてこられたのは、これまた高級そうなヘアサロン。

ハサミを持った美容師さんがいなければ、ここがなにをする場所かさえわからなかった。
だって、案内されたところが個室なんだもの!

「と、とと透さんっ」
「なんだよ?」
「私、カットならセルフでできますので」
「はぁ?」
「ハサミがあれば自分でチョキチョキッと……」
「……」

あ、今透さんの顔が引きつった。
そりゃ私の貧乏生活なんて、社長様からすれば想像もつかないのだろうけれど。
私だって、いきなりこんなセレブな扱いを受けたら蕁麻疹が出てきそうだ。

「ほんとに、私こんな素敵なところへ来るような人間じゃないんですよ」
「は?」
「もっと綺麗な人じゃないと、美容師さんにも失礼です……」

涙ながらに訴えると、透さんはなにも言わずに私を椅子へ座らせた。

「……ゆず」
「はい」
「俺がいいって言うまで目を閉じていて」
「……え?」

「自分に自信がなくて怖いなら、俺を信じて」

「……」


『俺の側にいて、俺だけを信じて』


今朝、透さんに言われた言葉が頭の中をこだまする。
まるで魔法にかけられたかのように、私はそっと瞼を下ろした。
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