【短編】君ガ為、闇ヲ討ツ
それを愛と呼ぶのなら
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私が、あの人を。


あの人を。


「霧氷、様っ……」


自分がしたことであるにも関わらず、涙が溢れてくる。

私が彼を弓の中に封印したのだ。

この神影の地では、殺生は禁じられている。

それなのに、彼は禁忌を犯した。


私の、兄を殺したのだ。


愛したはずの、相手。


愛する相手を、封印した。


もう見えない。

優しい瞳が。

優しい言葉を紡ぐ唇が。

美しい、不思議な色の髪が──。


神影では、殺しをした者は封印する決まりだ。

しかしそれもあくまで建前。

封印だって、彼等の意志と行動の自由を奪う。

ここでの封印は殺しと同義語だ。

どうして、霧氷様。


どうして───。

雪がひらりと舞った。

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