若の瞳が桜に染まる
「そんなに怒らないでくださいよ。うっかりは誰にでもあるでしょう」

「うっかり?ってことは、普段からそう呼んでるんだな?」

「さー、どうでしょう」

一瞬言葉を詰まらせた後、こそっと我久に耳打ちした。

「今晩は、気を利かせて新婚仕様にしておいたんで許してください。

では!」

「待て」

颯爽と立ち去ろうとする旬の腕を掴んだ。この調子で物を言うだけ言って帰る場合、何かを企んでいるということを、長年の付き合いから我久は見抜いていた。

「な、何するんですか。離してください」

「何を企んでる…?」

襖を開けて寝室を見てみると、そこに布団は一組しか敷かれておらず、二つの枕が置かれていた。

ぷるぷると我久は腕を震わす。

じとっとした目で無言の圧力を旬にかける。
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