若の瞳が桜に染まる
「…仕事始める前まで山に住んでた。
どこを見ても植物が生い茂ってて綺麗なの。あれだけ植物に囲まれた場所を他に知らない。

私を作ってくれた場所なんだ」

その口調、表情を見て、何か背負ってるものがあるんだろうなと直感的に察知した旬。

前に蘭が言っていた。日和には踏み込んではいけない闇がありそうだと。
どうせ、我久を取られた腹いせにそんなこと言ってるんだろうと思っていたが、そうではないのかもしれないと、考えを改めた旬だった。

「戻りたいと思う?」

「うん…。
ほんの少しでもいいから、またあの山に行けたらいいな」

ほんの少しか。
やっぱり慣れない場所で心細さは感じてるんだろうけど、ここに住む覚悟はしてるってことなのかもな。

何て言うか、お嬢って心の中で考えてることが手に取るようにわかるな。素直というか、単純じゃねーか。
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