若の瞳が桜に染まる
次の日もその次の日も、結局我久は日和と話すチャンスは得られなかった。
日が経つにつれ、もう今さら話しかけたところで、という思いが強くなり、より過去に戻りたい願望だけが大きくなるばかり。


それから何の変化もなくあっという間に一ヶ月が経った。

オフィスのスカイリー側では、日和の書いたガーデニングの記事が人気を博していると話題になっていた。
我久の耳に入ってくる噂によると、珍しい花の写真を載せたらしく、それに関する問い合わせが殺到したとのこと。

マニアックな雑誌な為、売り上げもたかが知れていたが、今回は右肩上がりに伸びていて最高部数を記録しそうだと騒いでいる。

だが、その盛り上がりのなかに肝心の日和の姿はない。

そういえば、オフィスにいるのをあまり見かけないなと我久は振り返った。
外回りから帰ってきてもそのままどこかへ行っている姿をよく目にしていたが、忙しそうだなと思うだけで特に気にはしていなかった。
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