若の瞳が桜に染まる
次の日、会社には少し緊張しながら向かった。

あの二人のことだから天祢組のことも、結婚のことも言ってはいないと信じているが、それらを知った人がいるというだけで緊張するものだった。

「おはようございます」

オフィスに入ると、気のせいだろうがいつもよりも視線を集めているような気がする。

ふと日和と目が合い、遠くにいるから気づかれないだろうと微笑みかけてみる。

「朝から仲睦まじいようで何よりです」

一歩踏み出した所でさっそく楠井に捕まってしまった。

「何のことだ…」

「とぼけたって無駄ですよ。ちゃんと見ましたから」

厄介なことになってしまったと肩を落とす。

「ちょっと、朝から天祢さんを困らせてどうすんの?
仕事しなさいよ」

シッシッと楠井を追い払った香織。

「おはようございます。天祢さん」

「おはよう」

にこりと笑う彼女は、以前と何も変わらない。

楠井も同じだ。

椅子に座ってほっと一息つく。

秘密を共有してくれる仲間が。
そして、自分の素性を知っても離れないでいてくれる仲間ができた。

それは何事にも変えられない大事なものとなった。
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