若の瞳が桜に染まる
やってしまったと、気付いた我久はすいませんと小声で謝り、恥ずかしさを堪えて椅子に座りなおした。
そして、ひそひそと吉田に言い返した。

「ちょ、なんでそんなこと俺に頼むんですか!一回も喋ったことないんですよ!大体何しに行くんですか?」

「まぁまぁ落ち着けって。
これはプライベートな話なんだけど、行きつけの店のお姉ちゃんがもうすぐ誕生日でな。花を渡そうと思ってるんだけど、どんな花が喜ばれるのかわからなくてさー。

柊さんならその辺詳しそうだろ?」

「ほんっとに個人的な話ですね。自分で聞いてくださいよ」

「恥ずかしいだろ!しかも良い歳した男が花って…、引かれそうじゃん。
だが天祢ならまだイメージできるんだよ、花探してますって言葉が」

「誰も引いたりしませんって!」

「いいや、これは上司からの命令だ。さっさと屋上に行って来やがれ!」

背中をバシバシと叩かれ、その場から動くとを強制された我久は、渋々廊下までは出ることにした。
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