若の瞳が桜に染まる
かつては誕生日が嫌いだった。誕生日なんて憎悪の対象でしかなかった。何のための、誰のための祝いの日なんだよと、避けてきた。

幼くして両親を亡くした我久にとって、いたくもない天祢組で育ってきた我久にとって、誕生日というものは、自分の出生を後悔する日でしかなかった。

それが今日、愛しい人に喜んでもらえる日となった。
自分が今まで大事にしてこなかったこの日を、周囲の人が大事にしてくれた。

きゅと、切なさにも似た感情が胸の奥を締め付けた。

隣に座っている日和の肩に額をくっつけてもたれかかる。

「…ありがとう」

「うん」

「わがまま言っていい?」

返事を聞く前に、日和からほんの少し体を離した我久は、その姿勢のままに顔を上げて唇を奪った。
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