若の瞳が桜に染まる
最近は、我久も旬兄も蘭さんも部屋にいないことが多い。たぶん天祢組として何か動いてるんだろうけど、私は何も知らない。

我久が話してくれるのなら聞く。黙ってるなら無理には聞かない。

それに私は今、自分自身のことで手が一杯だった。

あの日、屋上に落ちていたオルゴールを鞄から取り出す。

本当にこれが母親の形見だという証拠はどこにも無いけれど、手放せずにいた。
だが同時に、これを持っていると辛い過去の記憶が甦ってくるという影響もあった。

初めてメモを見たときにはかなり混乱したが、今ではそのメモもどこかへ消えたことだし、オルゴールを見ても、聞いてもあの時ほどの不快感は無かった。

だから、屋上の花も庭の花も多少枯れる程度でおさまっている。

それでも、日和が精神的に追い詰められているのは確かだった。ギリギリのところで、何とか泥沼に落ちずに耐えていた。
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