若の瞳が桜に染まる
「あ、待って…!」

その様子を見た我久は、急いで日和を追いかけ、扉が閉まりきる前に手をかけ、中に飛び込んだ。

ばたりと扉が閉まり、ほんの小さな窓からもれる月明かりだけが部屋を照らす。

その部屋は今は使われていないようで、何も置かれていなかった。埃っぽく床の板もめくれあがっている場所がある。

「頼む…。

話をさせて欲しい」

背中を向けて動かない日和に、我久は語りかけた。

返事もなく不安になるが、日和のいる部屋の奥まで進んだ。

「俺と蘭は、日和が思ってるような関係にはないよ」

日和は、その言葉に初めて我久の方を見た。

そして、我久の隣に少し隙間を開けて腰を下ろした。
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