若の瞳が桜に染まる
それからまた、部屋はしんとする。
外に出ても良いのだが、せっかくの二人きりの時間を壊してしまうのは勿体無いとも思ってしまっていた。

あ…。
我久は大事なものがズボンのポケットに入っていることを思い出した。

「日和…、なんか、タイミング間違ってるかもしれないけど…。
これ、あげようと思ってたんだ」

我久がポケットから取り出したのは、透明なフィルムに薄く挟まれた多数の小さな青い花。

「栞…?

これ、ワスレナグサだ」

「あぁ。前に日和から貰ったものだよ。
押し花にして栞を作ったんだ。俺のもある。

あのまま捨ててしまうのはもったいなかったから」

日和は、渡された栞を暫くじっと見ていた。

やはりタイミングが悪かったか、と後悔の念が押し寄せる。
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