若の瞳が桜に染まる
「…施設で育ったっていうのは、前に話したでしょ?

施設では、皆優しかった。施設の人も子どもたちも仲が良くて、本当の家族みたいだった。

大好きだった。

だけどそんなのは偽物で、何も知らないのは私だけだった。
施設の大人たちは、私の父親が柊忠義だと最初から知ってたの。その情報を元にあちこちから寄付をもらってた。

私のことを柊忠義の娘だということを口外しない代わりに、口止め料としてお金を得てた。
私の存在を厄介だと思う人は、柊忠義以外にも沢山いたみたい。

だから施設の人たちは皆私に優しかった。子どもたちにも、絶対に日和と喧嘩したり怪我をさせたりしないようにきつく言ってたみたい。

全部知ったのは施設を出るとき。

偶然施設の人が話してるのを聞いたの…。

その瞬間に全部崩れ去った。
信じてきたものが、全部…。

それからは、森に住んで…。しばらくはどんな生活を送ってたか覚えてない。

ただ周りにある植物がどんどん枯れていって、家は真っ黒な花と葉っぱに覆われた。

凄く嫌な空間で…、今でも夢に見る」

話を聞いて想像するだけで、我久はいたたまれなくなった。

こんなの普通じゃない。一体どうやって、自分を保ってきたというんだ。

我久だって似たような経験はしてきていた。新しく人と出会う旅に拒絶され、壁を作られ…。それでも蘭がいて、旬もいた。
支えがあったから壊れずにやってこれたというのに、日和はずっと一人で…。
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