若の瞳が桜に染まる
「けど、私がどん底にいても、森のサクラだけはずっと綺麗なままだった。
私を見守ってくれていた。
それで、少しずつ元気を取り戻せた。

だから…、我久にも会えたの。

もう、柊忠義のことなんてほとんど考えなくなった。

…なのに。

これが…」

日和が差し出したのは、小さな箱。

「…オルゴール?」

「…うん。
屋上に落ちてて…。
メモ紙が一緒にあって、そこには…。

母親の形見だ、父よりって書いて、あって…」

「え?
柊忠義が日和にこれを送ったってことか?」

「…わからない」

警察が日和に接触をはかってきた。
天祢組を探ろうとしているのかもしれない。いや、もしかしたらもう…。

我久は受け取ったオルゴールを隅々まで観察する。その目はいつもの我久ではなく、若頭のものだった。
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