若の瞳が桜に染まる
「俺も馬鹿じゃないんでね。天祢組の若頭とまとまにやり合ったら勝てないことくらいわかってますって。
一応拳銃も持って来たんですが、使う必要は無かったみたいだ。

…それじゃ先輩、日和は連れて行きますね」

足音が遠ざかっていく。

浅い呼吸の中で、扉の隙間から煙が入り込んでくるのが見えた。

煙…?
まさか、火を放ったのか?

逃げ場のない狭い部屋には、あっという間に煙がたちこめる。

そのまま我久は、その場に倒れ込んだ。

意識を失う寸前に浮かんできたのは日和のそとだった。

…助けなきゃ。守るって約束したんだから…。

パチパチと火の手がそこまで迫ってきているのがわかる。

我久はぎゅっと栞を握り締めた。
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