若の瞳が桜に染まる
シンとした無機質な部屋に我久はいた。甦ってくるのは煙の中で聞いた、遠ざかっていく日和の声。

それを思い出してしまうのはきっと、今から面会する人物のせいだ。

死を覚悟した。こういう世界に生きているのだから、長生きはできないかもしれないと思っていたけど、日和を一人残していくなど無念でならなかった。

楠井に連れ去られて、これからどうなるかわからない。

だが、助けたいという思いが頭を埋めつくすだけで、もう動くことはできなかった。

そんな意識を失った我久を間一髪で助けたのが、護衛である旬と蘭だった。

二人のお陰で死なずにすみ、日和を助けることができたのだった。
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