若の瞳が桜に染まる
「面会時間はそんなに取れません」

その声で、我久ははっとした。

「はい」

ガラスの向こうに連れてこられたのは、少しやつれた様子の柊忠義。
こうやって顔を合わせるのは初めてだった。

「天祢組の若頭が私に何の用だ」

拘束されてもなお、その威厳は保たれたままだった。

「楠井の居場所がわかりません。心当たりはありませんか?」

「さてな。あいつは最小限の連絡しかしてこない男だった。
口では色々言っていたが、本当に私に忠誠を誓っていたのかどうかも怪しいものだ。

ははっ。楠井の存在に怯えながら生きていくという訳だ。お前も私も。

いや、日和を渡せば案外あっさり引き下がるのかもな」

バンと鈍い音が響いた。我久が台に拳を打ち付けたのだ。

「金輪際、日和に接触しないでいただきたい。日和の名前も呼ばないでもらいたい。

また日和を利用しようなどと考えてみろ……、容赦しないからな」

我久は低い声で睨み付け、部屋を出ていった。

「ふっ、ああいう顔もできるのか」

若頭らしくない気の弱そうな男の見せた、迫力のあるその雰囲気に忠義は笑みをこぼした。
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