若の瞳が桜に染まる
「あ、その、婚姻届は既に出してるからこんなこと言うのは変なのかもしれないけど…。

…だけど、ちゃんと言いたかったんだ」

ポケットに忍ばせていた小さな包みを開く。
そこには、指輪が木漏れ日に反射していた。

「これからは本物の夫婦として、人生を共に歩んでいきたい。

日和。
俺についてきてくれる?」

森の奥から風が吹き込み、花は揺れ木々は優しく音を鳴らし、上からはヒラヒラとエドヒガンの花びらが舞い散る。

日和の返事を、森全体が息を飲んで待っているように。

日和は我久の目を見つめたまま、控えめに頷いた。

そして…。

「ずっと、どこまででも、ついていくよ」

そう言って柔らかく微笑んだ。
ほっとした我久もつられて笑顔になる。

幸せな空気が二人を包み、色とりどりの花が祝福していた。
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