若の瞳が桜に染まる

「また…、後輩をそういう目で見るのは良くないですって」

「なんだよ、良い奴ぶって。
これだから顔が良い男は…。周りの目ばっかり気にするんだから」

またか、と我久はうんざりした。
長身で顔立ちの良い我久に嫉妬しているのか、吉田は時々こうやって我久に嫌味を言ってくることがあったのだ。
相手にしないのが一番だと言われているが、このまま受け流しているとしつこくされるだけなので、その言い草が鬱陶しくも、面倒な上司に渋々付き合うことにした。

「わかりましたよ…。俺は、どっちかっていうと、右の人ですかね…」

決して意識などしていないということをアピールするように、あえて名前は言わずに日和の方を小さく指差した。
ただ実際には、バクバクと鳴り出す心臓を抑えこむのも一苦労で、緊張を顔に出すまいと必死だった。