若の瞳が桜に染まる
そんな我久の思いをわかってか、日和は自分を拐った二人を悪く思ってはいなかった。

「ありがとう」

気づけば笑みが零れていた。

「って、日和…!ここ怪我してる」

我久は、頬に切ったような傷を見つけた。

「あぁ、さっき葉っぱがかすれたから、その時かも。すぐ治る」

「まぁ、血はもう止まってるみたいだけど…」

白い肌に赤く滲む血。自分が同じような傷を負っても気にしないが、日和のこととなると、薬を塗った方がいいんじゃないかとひどく心配になる。

こんな小さな傷で、らしくもなく慌てふためく我久。顔を近づけて傷の具合を確認していたせいで、屋上の扉が開かれたことに気がつかなかった。
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