若の瞳が桜に染まる
我久は未だ固まったままで、何故か日和と共に戻らないでここにいる香織に対しての言い訳を考えていた。

「天祢さん…?あの、私、邪魔してしまいましたか?」

「決してそんなことは…!

息抜きにここに来ただけで、そしたら日和が頬に怪我してたから…。大丈夫かなって見てただけで…」

「あぁ、そういえば、切り傷みたいなの付けてましたね、あの子」

察しの良い香織のことだからと、必死で取り繕う我久だが、完全に動揺を隠せずにいた。

「それにしてもヒヨリン、天祢さんには随分なついてるみたいですね。同期の正隆のことでさえずっと楠井さんって呼んでるのに、天祢さんのことは我久って呼んでるんですね」

ギクリとした。去り際の一言が聞こえていたらしい。
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