若の瞳が桜に染まる
ピシャリと門が閉まると、庭にいた数人の男性が一斉に頭を下げた。

「お帰りなさい、若」

野太い声が綺麗に揃う。男たちは皆怖い威圧的な顔をしていて服装もいかにもというという感じのスーツ。その迫力は生まれ持ったものというよりは、環境がそう変化させていったものだろう。
中には顔に傷がある者もいて普段街を歩くだけでは、まずすれ違うことのないような人々が勢揃いしていた。

彼らに混ざると、我久の優しい顔立ちや雰囲気が異様なまでに際立つのだが、彼はいたって普通に振る舞った。

「ただいま。
そんなかしこまらなくていいって言ってるじゃないですか。
ただ帰ってきただけですから」

いつものように、笑って優しく彼らに言葉をかけると、我久は屋敷の中へ入っていった。
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