しょうがねーな、まったく。
よし、よし、それでいい。

パパがいないのは可哀想だと思うけど、それだけはどうにもできない。


二人だけで生きて行くのは容易なことじゃないってわかってる。

だけど、翼のためなら私はいくらでも頑張れるし、寂しくなんかない。

翼がそばにいてくれれば、何も要らない。


この子の父親は、私を裏切った。

奥さんがいるのにも関わらず、それを隠して私と関係を持ち始め、子供ができたと告げた途端、態度を豹変させた。

今、考えれば、最低最悪の男だ。


あの頃は、私もどうかしていたのかもしれない。

奥さんがいるとわかっても、すぐに彼を諦めることができなかった。

それどころか、奥さんより先に妊娠したことで、妙な優越感を感じていた。

これを武器にして、子供のいない夫婦を壊すなんて簡単だと思い込んでいたから。


でも、六つ年上の彼は、若いだけで何も知らない私じゃなく、学生時代から付き合っていたという彼より年上の奥さんを選んだ。

何度話し合っても「堕ろせ」の一点張りで、彼は最後まで態度を変えなかった。


だけど、私はどうしても授かった命を断つことができなかった。

生まれた子供に父親として会う気はないと言われても、今後、経済的な援助はできないと言われても。

お腹の中で動いている愛しい存在を、無かったことにして生きて行く人生なんて、絶対に考えられなかったから。
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