しょうがねーな、まったく。
「もうどうでもいい」って、サラっと言えるまでには、どれだけかかったんだろう。

家事もろくにできなかった男の人が、小さな女の子を抱えて生きて行くなんて、並大抵の努力じゃ不可能だ。


しかも、希ちゃんを育てて行くために、たった一年で、やりたかった仕事を諦めたんだよね。

一級建築士の資格を持ってゼネコンに入社するからには、それなりの夢があっただろうに。


あいつ、本当にすごいんだな。

改めて尊敬してしまう。

そして、すごく強い人なんだって、新たに発見した気がする。


きっと、いっぱい苦労して来たから、周りに優しくできるんだよね。

乗り越えて来た道が険しかったからこそ、人の気持ちに気付いてあげられるんだろう。


この人に惹かれちゃうのには、ちゃんと訳があったんだ。

「会いたい」って思っちゃったのも、自然な流れだったのかな..........


「この話、ちょっと重すぎた?」

「へっ?」

「だって、急に黙り込んじゃうから。」

「あぁ、ごめん。大丈夫。」

「ホントに?」

「今まで何も知らなかったから、ちょっと驚いちゃって。」

「詳しいことはよくわかんないけど、結構な苦労してるよね、淳史くん。普通に行ってりゃ、豊島建設でエリートコース歩んでたかもしれないのに。」

「豊島建設!?」

「そうだよ。知らなかった?」

「うん。」
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