冷たいキスしか知らない俺に、本当のキスを教えて
もやがゆっくり晴れていき、視線の端に人の気配。
生い茂る木々に隠れて、ここからは足もとしか見えない。
見える足先は、ときどきパタパタと動いている。
ナギと出会って、最初に携帯を置いたベンチ。
あそこに座ってナギに話しかけようと思っていたのに、珍しく先客がいた。
ベンチに近づくにつれ、その人の姿が露わになってくる。
私は携帯をぎゅっと握った。
心臓の音が、外にまで聞こえるくらい大きくなる。
信じられなくて、足が止まった。
何度目を凝らして見ても、その景色は変わらない。
そこに存在しているのが、私の目にはっきりと見えた。
身体を丸めて、どこか遠くの方を見つめているその人は、私がずっと会いたいと願っていたナギ、その人だった。
「ナギ!」
ナギは、目の前に立つ私を確かめるようにじっと見つめて、静かに言った。
「……誕生日、おめでとう」
そう言って、ナギはふわりと微笑んだ。
ぶわっと涙が溢れてくる。
「どうして?なんでここにいるの?帰ったんじゃないの?なんで人間なの?携帯は?ねえ、どうして?」
ナギはそんな私を、優しい眼差しで見つめるだけだった。
溢れる感情が涙となって頬を伝い、次から次へとこぼれて落ちる。
ナギの手がスッと伸びて、涙にまみれた私の頬に触れた。
「ナギ……」
温かい。
めちゃくちゃあったかい。
ナギの大きな手は、私の涙を包んで拭ってくれた。
「……真友に…触れることができた……」
ナギの瞳が揺れている。