冷たいキスしか知らない俺に、本当のキスを教えて
「俺は、自分の世界を捨てたんだ」
「……どういうこと?」
「俺たちもね……一つだけ願いを叶えることができるんだよ。だけど、願いを叶えてしまうと、なんのチカラもなくなる。そして、自分の世界すら、捨てることになる」
ああ……。
私は、言葉の意味をようやく理解した。
涙が、後から後から溢れて止まらない。
「もう一度、真友に会うために。真友に誕生日おめでとうって、どうしても伝えたかった」
言葉が出ない。
流れ出るのは涙ばかり。
「だから、願いを叶えた。俺は、もうなんのチカラもないただの人」
「そんなことのために……自分の世界を捨ててまで……」
「そんなことじゃない。俺にとっては、大切なことだよ。真友は、俺に恋を教えてくれたから。真友の気持ちがわからなくなったとき、恋してるって気づいたんだ。
俺たちは、相手の気持ちが読めるけど、唯一読めない相手がいる。それは、好きになった人。向こうの世界では、恋することはないんだ。みんなひとりきりで、誰とも合わずに過ごすから。だから、自分が恋したことに驚いて……でも、嬉しかった」