冷たいキスしか知らない俺に、本当のキスを教えて



「だーかーらー、願い事があるから、俺を呼んだんだろ?」


「えっ、呼んだ?私があなたを?」


「そうだよ。手順通りにしてたじゃねーか。」


「手順通りって?」


「番号を表示させたらすぐに閉じて、また表示させてってのを26回繰り返して、フーッて息を吹きかけて、それから画面を裏返して、2回叩いて……って、とにかく、だから俺が来てやったんだ……ったく、気持ちよく寝てたのによ~」


そう言いながら、眠そうに目をこする。

なんかよく分かんないけど、この人に悪いことしちゃったのかな……。

だから、今度はすぐに謝った。


「よく分からなかったの。ごめんなさい……」


私が謝ると「ああ、こっちこそごめん。」ってこの人、急に焦ったように私に言った。


「簡単に言うと……ここと、そっちとじゃ、昼と夜が逆なんだ。まあ、全部じゃないんだけど、だいたいそっちと逆って考えてくれ」


つまり、夜中に呼び出されたことになるのか。
それじゃ眠いよね……。


「私、まさか自分がしたことが、あなたを呼ぶことになるなんて知らなかったから……迷惑かけてごめんなさい。だからもう、帰ってください」


私が画面に向かって頭を下げると「おいおい、またかよ」って寂しげな顔をする。


「君の前に呼び出されたときも、おんなじこと言われたっけ。呼んでもいないのに出てくるな……怖いから早く消えろって言われてさ。そう願えばすぐ消えますって言ったら、すぐ消えろって願われた」


「……あ、そうだったんだ……」


目が合って、なんとなくお互い微笑んだ。
この人の笑顔を見ると、なんだかすごく安心する。


「あの、お名前は…?」


私が聞くと「ナギ」って答えた。
名前なんて、初めて聞かれたって嬉しそうに。


「君は?」


「私は、まゆ。真実の友って書いて真友」


ナギは「すっげーいい名前」だって褒めてくれた。
私も、名前を聞かれてこんなに褒められたのは、初めてだよ。


「ナギは何歳?私は16。もう少しで17歳になるよ」


「俺は、17…だと思う。ここ、数えると、17本の線があるだろ?」


ナギが腕をかざすと、17本の線が現れた。
長かったり短かったり、長さはいろいろで傷のようにも見える」


「それ、痛くないの?」

「痛くねーよ、こんなの。でも、一年間の働きが悪いと線が短くなっちゃう。ほら、この年は、全然ダメだった年」


「……そうなんだ……大変なんだね……じゃあ、私がナギを呼び出したのに何もさせないで返しちゃうと、今年の線が短くなっちゃうんだね……」


ナギは「そんなの気にすんな」って笑った。

「気にするよ。だって、ナギはもう私の友達だもん」


私がナギに向かって笑うと、ナギはなぜか後ろを向いた。


「俺、妖精やってて,今が一番嬉しいかも」


そう聞こえたような気がしたけど……すぐに振り向いたナギは、優しく微笑んでいた。







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