冷たいキスしか知らない俺に、本当のキスを教えて
ナギの「いいぞ」という声で、画面から唇を離し、ゆっくり目を開ける。
同じタイミングで、ナギも画面から遠ざかっていく。
「……どうだ?」
強い瞳で見つめられて、ドキリとする。
携帯とはいえ、私、この人とキスした?
いや、いやいや、それ違うでしょ。
「あ……なんか、うん……頑張れそう」
「そっか……それじゃ、今、告白してみ?それまでここにいてやる」
にっこり微笑むナギを見ていると、勇気が湧いてくる。
「う、うん、じゃ、かけてみるね。」
私は、先輩に電話をかけた。
ずっと言えなかった言葉を、自分の口で伝えていく。
「先輩が……好きです。私と付き合ってください」
言えた……とほっとしたのもつかの間、あえなく撃沈。
「ナギ……先輩には、好きな人がいるんだって。ふられちゃった。でもね、先輩が言ってた。キミのように、俺も告白頑張るよって。勇気もらえたみたいで嬉しいって。悲しいけど、先輩にそう言ってもらえて嬉しいかも。自分の頑張りが報われた気がするから。ナギ、ありがとね。告白できて、ほんとによかった」
ふられたけれど、気持ちはスッキリしていた。
頑張った自分が、愛しく思えた。
頑張った自分に、泣きたくなる。
「……泣いてもいいんだよ」
ナギは、心配そうな瞳で私を見つめる。
ああ、ナギには、私の心がわかっちゃうのかな。
「泣かないよ。だって今は、すっごく……スッキリしてる……から……ありがとう……ナギ……ナギがいなかったら……私……。」
いつの間にか泣いていた。
ナギの前なら、泣いても恥ずかしくなかった。
「……そっか……まあ、あれだよ……真友ならすぐに……誰かに愛してもらえるよ……な、だから元気出せよ」
「なによ、それ?もしかして、私を慰めてくれてるの?」
鼻をすすりながら、画面に顔を近付け話しかけると、ナギはくるっと後ろを向いた。
「い、いや、ぜんっぜん、ちげーーしっ!」
小っちゃい背中。
でも、とっても頼りになる背中。
私は、ナギの背中に向かって、もう一度お礼を言った。
「……ありがとう」
ナギは、背中越しに小さく手を上げる。
その手を見て、あれって思う。
指先が、透明になっているような……もしかして……?
「ナギ……もうそろそろ、帰らなきゃいけないんじゃない?」
「お、おう……ん、そうだな。そろそろ時間だ。じゃあな」