囚われ姫と金と銀の王子
そう言って殿下は胸の辺りをグッと握りしめ、切なそうな表情を浮かべる。


相手に伝わらない恋というものは、こんなに人の顔を歪ませるものなのか、と改めて思う。

それは自分に向けての事なのに、不思議と他人事のように冷静に物事を考えてしまう私がいて。



・・・それは多分、私が恋というものを知らないからだ。


むしろ今の自分は、人を好きになるという行為を避けているような気がする。

小さい頃からあんな複雑に入り乱れた恋愛模様を見せられたら、避けても当たり前な気はするけれど。


・・・そして今も。

同じように複雑な感情の渦の中に巻き込まれて、正直逃げ出したい自分がいる訳で。


・・・私は殿下を好きになる事が出来るのだろうか。

彼と手と手を取り合って、この国の王妃として国王になる殿下を支える事が出来るのだろうか。



私に『殿下と結婚をしない』という選択権はない。

だからこのまま殿下が押し通せば、私は殿下と正式に婚姻関係を結ぶのだろう。


このまま正式な夫婦になって、でも私の気持ちが変わる事がなかったら?


彼はどれだけ私の前で、その苦痛と悲痛に満ちた表情を浮かべるのだろう。

いつになったら愛してくれるんだと、私にどれだけ叫び続けるのだろう。



・・・それはそれで、辛い人生になるのかもしれない。


―――殿下自身も、そして私自身も。


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