白の唄
「…人…」

ナツがぼそっとつぶやきくとリアスは少女に向かって歩を進めていた。
傍らに膝をつき、口元に顔を近づけて息を確かめる。

「死んではないみたいだ」
「じゃあ寝てるの?」
「ぽいな」
「でもなんでまたこんなところで無造作に…」

カナの言う通り、ここは森のど真ん中、しかも少女が倒れているのは草むらの中だ。寝るにしては不自然すぎる。
リアスは途中で脱いだ黒のコートをすっと少女にかける。

「急に睡魔に襲われたんだろう」
「真面目な顔してバカなこと言うよね、リアスって」
「確かに」
「カナ、今晩のおかずになる気はあるか?」
「俺だけかよ!?言ったのナツだろ!」

「…ん……」

と、少女がわずかに動いた。

「あ、起きちゃったかな」
「んー…」

少女は上半身を起こし、盛大に背伸びをした。
寝ていたにも関わらず、その薄茶色の髪には痕はついていない。どっちかといえば顔の方に服の痕と草がついている。
その肌は陶器を思わせる白、滑らかな輪郭と、眠そうに開ける目は灰色だ。彼女を色で表すなら白、だった。細い手足をめいいっぱい伸ばし、もう一度背伸びをした。
満足すると、初めてリアス達に目を向ける。

「…えーっと…どなたですか?」
「こっちも訊きたいね」
「だからこっちも訊きたいんです」
「いや俺の方が訊きたい」
「いやいや…」
「やめんか。話が進まん」

日が暮れないうちにリアスが止める。

「とりあえず、お前名前は?」
「…ハノン、ハノン=ヴィッテですけど…」
「あー、そう…俺はリアス=カルヴィナ。お前どうしてこんなとこで寝ていた?」
「どうしてってそりゃあ眠たかったからでしょ」
「………」

きょとんとした目で言うハノンだが、ここが野外だという意識はあるのだろうか。

「はぁ…まぁいいや。じゃあ何でこんなところにいるんだ?」

カナは盛大にため息をつき、腕を組みながら言う。リアスも近くの木に背中を預け、ナツは動いてもいない。
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