逆光
「和泉は友達だ。サッカー部の奴らも、クラスの女子も、友達だ。皆、友達で、好きだ。」
ぼんやりと、翔は呟く。
「恋愛感情が、分からないんだ。」
恋愛感情が分からない。
それは、高校二年生が口にすることではないような気がした。
翔はモテるのだから、今までで恋愛の一つや二つ経験しているのだと思っていた。
和泉はよく分からないまま、翔の話を黙って聞いていた。
声に抑揚は全くなかったが、翔は流れるように言葉を吐き出した。
「初恋ってやつが、全然来なくて、不安だった。試しに恋愛漫画読んだり恋愛ものの映画も観たりしてみたけど、全然ピンと来なくて。」
和泉は少し眉を寄せた。
いくら捻くれた性格の和泉でも、恋愛漫画を読めば空想ながらこのヒロインの彼氏はかっこいいな、この男だったら付き合ってもいい、くらいは思ったことがある。
不本意ながら、漫画でたまにドキリとすることもあった。
男子と女子の恋愛漫画に少しの違いはあるだろうが、翔だって漫画を読んでドキッとしたことがあるのではないか。
和泉はそう思ったが、翔はどこか凪いだ目をしていた。
「変だなって思って、色々調べてみたんだ。俺、多分、無性愛者だ。」
「……なにそれ。」
ようやく口に出せた言葉は、少し掠れてしまった。
「好きだっていう感情はあるけど、恋愛感情は湧かないんだ。」
まぁ、自分でも詳しいことはよく分からないけどな、と翔は笑う。
その翔の目を見て、あぁ、と和泉はどこか納得した。
翔が和泉に対して全くなんの欲もなく振舞ってきたこと。
今まで和泉に近づく男は程度の差はあれど、皆情欲を含んだ目で和泉を見ていたのだ。
だが、翔からはそれが全く感じられなかった。
それが心地良くて和泉は翔の側にいたのだが、翔も翔で、自分のことを恋愛対象として見ていない和泉の側は心地良かったのだろう。