逆光
『私が大学時代に作った除草剤も、動物実験で催奇形性が確認されていました。人間への影響は確認されていないと言われますが、それは人体実験が出来ないからです』
寺田総馬の声を聞きながら和泉はコーヒーに口をつけ顔をしかめる。
苦い。
ペリペリと備え付けのミルクの蓋を剝がす。
和泉は今、大いに悩んでいた。
何をかというと、寺田総馬と別れるか否かだ。
ナムト国との戦争で使われ続けている除草剤。
それが寺田総馬が開発したものが元となっていることを知れば、寺田総馬は絶対黙っていないことは分かっていた。
『成る程。分かりやすい説明ありがとうございます。よろしければ、これからどのような活動をしていく予定なのか教えていただけませんか?』
『まず第1は被害の状況を知ることですね。有難いことに科学分野の著名な方々が協力して調査してくれるそうです』
ナムト国にどれほどの除草剤が散布されたのか。
散布された範囲。
周辺の動物の突然変異はないか。
国の政策に反対している科学者たちが、実際にナムト国に行って調査をするようだ。
あくまで予定の話だが。
和泉がぼんやりとラジオを聞いていると、向かいの椅子に誰かが座った気配がした。
顔を上げる。
すっと目の細い、涼しげな美人が和泉の前に座っていた。
「ここ、いいですか?」
「別に」
またか、と和泉は正直ウンザリした。
目の前に座った女の人のストレートの髪がサラリと肩から流れ落ちる。