逆光
「和泉さん、ですよね?」
「……そうですけど、あなたは?」
「島です。島光です」
ニコリと、目元を緩めた島さんという女性。
その笑みは好意が含まれてるとは言い難いもので、和泉は黙ってコーヒーを飲む。
島さん。
島光。どこかで聞いたことがある名前だ。
どこだったか。
「寺田さんと付き合ってるんでしたよね?」
「そうですけど」
寺田総馬はナムト国の除草剤について活動を始めてから有名になった。
顔も良い、頭も良い、性格もまさに好青年。
世の女性が黙っているはずがなかった。
反除草剤グループとしても若くイケメンな人が表に出た方が世間の印象はいいと判断したのだろう。
だからここ最近寺田総馬はラジオにテレビに引っ張りだこだったのだ。
その弊害が、これだ。
「どこかで会ったことありました?」
「え?」
「島光ってあなたの名前、聞いたことあったので」
和泉がそう言えば、島さんは細い目を見開いた。
少し虚をつかれたようだ。
「えっと、一応和泉さんと同じ大学の二回生です」
学部は違いますけど、と彼女は言った。
大学なんて人数が多いので全員なんて把握できるはずもない。
そもそも和泉は覚える気もないのであるが。
だが、和泉はそう言われて思い出した。
「島グループの娘さんか」
和泉がそう言えば島光は苦笑いを返した。