逆光





もしも。
もしもの話。

寺田総馬が「俺と一緒にナムト国へ行こう」と言ったら、和泉は何と返しただろうか。

きっと断るだろうな、と和泉は思った。

自分の人生設計にナムト国へ行くことは含まれていない。

それからは、誰か他のお金持ちと結婚して。
そこまで想像して、和泉は少し安心した。
ここ数年、甘ったれた寺田総馬と一緒にいて自分も変わってしまったではないかと思っていた。

けれど、大丈夫だ。
私は揺るがない。

自分なりの幸せのイメージはまだちゃんとある。

そのことに安心しながら、和泉は目の前の鍋を無感情に見つめた。










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