逆光
未だに言葉をつむげない和泉に大谷がたたみかける。
「俺、断ったよ。再婚の話」
「はぁ」
「賭けてもいいけど、和泉さんは総馬と一緒にいると思うよ」
「ないです。ナムト国に総馬さんが行く時に別れます。だから再婚の話が出てるんじゃないですか」
「俺は離婚しない方に賭けるよ」
飄々とそう言う大谷。
和泉の不機嫌を気にもしない態度に少しムカついた。
何と言うか、和泉が生き方を変えたと思われるのが嫌だった。
「何を根拠にそんな」
「それ」
途中で遮られ指さされた。
和泉の胸元を指す指。
「その安物のネックレス」
ぽってりとした輝き。
付き合い始めの頃、骨董市で総馬が買ってくれたもの。
「身につけてるブランドものはコロコロ変わるのに、それは何年も付けてるから」
ね、とにこやかに笑われた。
和泉は目を瞬いてから「気に入ってますから」と言った。
実際、変に高価なものよりもこのくらいの安物の方が普段使いしやすいのだ。
それだけなのに。
それが理由とは。
おかしそうにニコニコしている大谷を、和泉は奇妙な思いで見つめていた。