逆光
『強いストレスにより、不眠、フラッシュバック、不安、気鬱、記憶障害、人格変化、自殺願望などの症状に悩まされる』
雑誌に載っていたPTSDの症状を思い出す。
だから、軍に行くなんてやめとけばよかったのに。
和泉は受話器をぎゅっと握りしめる。
すると、ふいと横からマグカップが差し出された。
中のココアが湯気を立てて揺れている。
顔を上げれば、「ん」と総馬がココアを寄越してくる。
「ありがとうございます」
「翔さんは?」
「ダメでした。翔のお母さんが会わせたくないみたいで」
「そうか」
それだけ言うと、大きな手で頭を撫でられる。
ココアを一口飲めば、一瞬の熱さから、甘さが一気に染み渡った。
隣の総馬もココアを飲みながら遠い目をしている。
何を考えているのだろう、と和泉は思う。
兵士たちのことか。
それとも、ナムト国の人たちのことか。
ナムトはまだ戦争状態だ。
ナムトへ行ったら、総馬も何らかのストレスで苦しむのだろうか。
そんなことを考えて、和泉は今まで黙っていたことを口にした。