逆光







「和泉」

「はい?」

「多分ないとは思うが、別れてから何年かして、再会したとしても、俺には話しかけるなよ」

「……」

「俺も何も言わないから」


和泉は黙って総馬の手に指を絡める。
女々しい奴と思われているのだろうか。
はたまた、未練がましい奴だと。

けれど、誰かのものになった和泉を目の前にして、平静でいられる自信がないのだ。
その時総馬はきっと嫌な奴になる。

そんな己の姿を彼女の目に入れたくない。

だったらせめて、女々しくて未練がましいが和泉を精一杯愛した男として記憶されたい。


『今のこの国のヒーローが何言ってんだ』


随分昔に安国寺に言われた言葉。
ヒーローになったつもりはない。

人を救えるだなんて思ってない。
反TS活動は、責任とか、後ろめたさとか、自分勝手な罪滅ぼしのためにやっているのだ。

正義感なんかじゃなかった。

衝動的に和泉を抱え込む。
身体を反転させ、ベッドに押さえつける。

覆いかぶさった下で、和泉が目を瞬いているのが見えた。







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