逆光
「私の渡航費用は気にしないでください。お金は作りましたから」
そう言って和泉がポケットから出した通帳を開く。
数字の後に0がいくつもある。
「今まで総馬さんに買ってもらったブランド品全部売りました」
「……和泉、どうした。トチ狂ったのか」
「失礼な男ですね」
「だって、お前、あんなにブランドに執着してた女が全部売ったって」
信じられるわけないだろう。
呆然とそう言う総馬に、和泉はゆっくり歩み寄る。
「これがあればいいかなって」
そう言いながら、胸元のネックレスをチャリチャリといじる。
骨董市で和泉に似合うと思った、ぽってりしたネックレス。
五百円ぽっちの小さな輝き。
目の前がチカチカした。
これは夢かと思った。
目頭が熱い。
唇が震える。
自分もナムトへ行くと。
これがあればいい、そう和泉は言った。
「好きです」
まっすぐな視線で、和泉からそう告げられた。
はっきりとした意思で。
本当に、夢なんじゃないかと滲む視界で総馬は思った。