逆光
「総馬さんが一人で料理を焦がすのは嫌だったんです。一人になったあなたの背中を想像したくなかった」
窓から光がさす。
あたたかい春の光は逆光となって和泉の身体に影を落とす。
目だけが淡い光で総馬を見つめていた。
「でも、もっと嫌だったのは、総馬さんが隣にいる誰かを求めることです」
両手を頰に添えられた。
顔を引っ張られ、和泉と目線が同じになる。
顔が燃えるように熱い。
視界がぼやける。
喉が痙攣する。
嗚咽が漏れ、鼻水が出てきた。
和泉の目に映るのは、三十路の男の、情けない泣き顔だろう。
「総馬さんが、我を忘れて必死になって、みっともなく求める相手は私だけです」
苦い夜の思い出だ。
伴侶の誕生日も忘れていた。
あと少しでいなくなってしまう彼女を、なんとか引き止めたくて。
離したくなくて。
ひたすら必死でカッコ悪かったであろうあの日の総馬。
最後の悪あがきは、和泉の胸のどこかに引っかかったようだ。