逆光
『色々あったけど、私も総馬さんも元気です。翔も、元気じゃなくていいので、生きててください。私は変わったけど、一番の友達としての別枠は高校の頃からずっと変わらず、翔のままです。数少ない友人に先立たれるのは嫌ですから』
そこまで書いて、ふと思い出した。
お弁当の卵焼きを食べていた時、隣にいた翔。
『いつか和泉は誰かを好きになると思うよ』
その、翔の言葉。
好きなのだろうか。
芽生えた執着は、恋と呼んでいいものなのだろうか。
「和泉!」
遠くに、総馬の姿が見えた。
今だって、ブランドものは好きだし、お金だって好きだ。
それから。
夏の日差しの中。
太陽の光を受けて立つ汗だくの顔。
昔から変わらない、くしゃっとした笑い方。
和泉は手紙を鞄にしまう。
そして、日陰から夏の地面へ歩き出す。
細かいことはいいのだ。
二十九歳の和泉は、ブランドものが好きで、お金が好きで、総馬の笑った顔が好きだった。
彼の隣にいる日々が、幸せだった。