逆光
寺田総馬はじっと座ったままだ。
唇を噛んで、納得いかない、というようにテーブルの上の口をつけていないコーヒーを睨んでいる。
なんとなく、ふっと気まぐれに。
ポツリと和泉はその姿に声をかけていた。
「私の高校の時の友人は、多分誰にも言ってないであろう秘密を私に話したんです。」
別に私は何の励ましも慰めもしませんでしたけど、と付け足す。
そう、あの時は顔には出さなかったけど結構混乱していて。
聞いているので精一杯だったな、と思い出す。
「多分私も、あの友人にだったら自分の嫌なとこも醜いとこも話すと思います。」
和泉がそう言い切ると、寺田総馬は顔を上げた。
そしてじっと和泉を見つめてきた。
「友人はたくさんいても、ただの友人とひとくくりに出来ない、特別な人っていると思うんですけど。」
財布から小銭を取り出す。
ミルクティー代をテーブルの上に置き、和泉はサッと身を翻す。
「では、さよなら。」
そう言って振り返ることなくその店をあとにした。