逆光
もう学食を使うのはやめよう。
和泉はそう心に決めた。
お弁当を作ってきて、人気のない場所で食べるようにしよう。
うん、そうすべきだ。
口を引きつらせ固まる和泉の前には、紙袋がドンと置いてある。
上品な紅色の紙袋。
まさかと思ったが、それは間違いなく。
フェラガモの紙袋だった。
「赤いパンプスで良かったんだよな。」
ニコニコと人の良さそうな笑顔を浮かべているが、和泉には分かった。
コイツそこそこに腹黒い。
食べようとしていたカルボナーラはフォークに巻かれたまま空中で止まっている。
目の前の席に腰を下ろしフェラガモの靴を差し出す寺田総馬に何と返すべきか和泉はしばし悩んだ。
要らないと、確かにあの時私は言ったはずだ。
聞こえてなかったのか。
あるいは忘れたのか。
どのみち、何らかの意図があって敢えて買ってきたのは確定だろう。
止まっていたフォークをようやく動かしカルボナーラを一口食べる。
もぐもぐと紅い紙袋を見つめがら噛み、飲み込む。
「それで、何がお望みですか?」
「なんだ、これはこの前の話のお礼だと思ってくれ。」
「んなわけないでしょう。どこの馬鹿が話聞いてもらっただけで八万の靴をお礼に買うんですか。で、何が目的ですか?」
「和泉さんは俺をなんだと思ってるんだ。」
「あんたに貸しも借りも作りたくないだけです。」
目を細めて冷たく言い捨てる和泉。
ハハハ、と眉を下げて笑う寺田総馬は犬のようだ。
腹黒い柴犬か。
イライラした気持ちのままカルボナーラをまた一口。
にんにくが効いていてとても美味しいのだが、いかんせん目の前の人物が邪魔だ。
「まぁ、確かにこの靴をダシに和泉さんを誘いたかったのも事実だ。」
「誘う?どこにですか。変な場所じゃなければ別にいいですよ。パッと行ってパッとかえりますけど。」
「つれないなぁ。」
うーん、と寺田総馬は情けない声を出す。
それから何を悩んでいるのやら、なかなか話を切り出さない。
貴様それでも男か。
言いたいことがあるなら早く言えまどろっこしい。
ついてるもんついてんだろ、と食事中にも関わらず和泉は下品なことを思う。