逆光
しばらく無言の時間が続く。
そして和泉がカルボナーラを食べ終わる頃に、ようやく寺田総馬が口を開いた。
「ラーメン、食べに行かないか?」
「は?」
「美味しい店があるんだ。露店だから狭いけど、本当にオススメでな。」
「…………」
「店主が北の方出身だから味付けは濃いめで、これがなかなかハマるんだ。」
「…………」
「だから、えっと……」
「…………」
「……睨んでてもいいが、何か反応してくれないか。」
段々と声が小さくなっていき、しまいにはシュンと顔を下げてしまった。
そんな寺田総馬の様子に和泉は呆れたようにため息をつく。
別にそんな切羽詰まったように誘わなくても、八万もする靴を買わせたのだからある程度は付き合うつもりだ。
何の対価も返さずにこのまま靴だけ受け取るのは後味が悪い。
ただ、ラーメン屋とは何とも嫌味な。
初めて話したときの仕返しか。
あの時は和泉にラーメン屋に誘われたら行くと言っていた寺田総馬を言外に非難したが、今の和泉も同列になってしまう。
だからといって靴のことを無視して断わればそれこそ和泉が悪女のようではないか。
性格が悪いことは自負しているが、和泉にもそれなりの良心がある。
なんだか今更な気もするが。
そんな和泉の内面を勘付いたのか、寺田総馬が口を開く。