逆光
寺田総馬に連れてこられたラーメン屋は屋台形式で、四人が座るのが精一杯という店だった。
和泉たちが行ったときは夕御飯には早い時間だったからか他に客はいなかった。
ドラマやアニメで屋台形式の店の存在は知っていたが、実際に目撃したのは初めてだった。
和泉は思わずきょろきょろしてしまう。
このような屋台はおでん屋というイメージがあるが、ラーメン屋もしっくりくる。
「和泉さんはどれがいい?」
「美味しければなんでもいいです。」
「じゃあとんこつ二つで。」
店主は寡黙なのか一つ頷いて黙々と作り始めた。
少し油っぽいテーブルを眺める。
何か話してくるかと思ったが寺田総馬は黙っている。
誰も声を発さないまま、店に置かれたラジオの音声だけが場を通り過ぎていく。
『ナムト国の人民解放戦線とナムト共和国との間での攻防は熾烈を極めており……』
穏やかでない内容が流れてくる。
和泉の国は二十年ほど前の世界大戦で勝利陣営だったこともあり世界でも一二を争うほどの大国となっている。
いつでも和泉の国が軍を他所に派遣する側で、他国の軍に上陸されたことはほとんどない。
だからか、国土が戦火に見舞われることはなかなかないので国民は平和ボケしている。
戦火に巻き込まれるのは大抵発展途上国だ。
今ラジオで話題にされていたナムト国も、実質和泉がいる国ともう一つの大国との代理戦争だ。
和泉は今自分がいる国は好きではなかった。
別に世界の覇権が欲しいのなら勝手にすればいいと思うが、自分達は正しいことをしている、正義の味方だと豪語するのはやめてほしい。
和泉が眉間にしわを寄せているのに気付いているのかいないのか、寺田総馬が話しかけてくる。
「二十年前の大戦で、この国はまほろば国を倒しただろう。その時の戦犯の裁判結果を最近調べたんだが、納得いかなくてな。」
「何がですか?」
「まほろば国は、侵略した地での人体実験をしていたはずだ。なのに、時の権力者や捕虜虐待した者は戦犯として裁かれているのに、人体実験の責任者や関係者は裁かれていない。」
「あぁ、」
そのことですか、と和泉は言う。
なんてことないように受け止めた和泉に寺田総馬は目をパチパチとさせる。
けっこう有名な話だと思っていたが、寺田総馬は知らなかったようだ。