逆光





「うちの国がデータをもらう代わりに、その人達の罪は不問にしたんですよ。」

「データ?」

「だから、その実験のです。仮にもうちの国は世界の警察気取ってるんですから人体実験なんてやったら非難轟々じゃないですか。」


寺田総馬は苦い顔をした。


「ま、まほろば国は化学分野に限らず工業もかなり遅れてる国でしたから本当のところなんて分かりませんけどね。噂ですよ。」


納得いかないような顔をして寺田総馬は頬杖をつく。
和泉としてはまほろば国は兵器を動かす燃料一つにしても質が悪いものしか作れない国というイメージがあった。
だから細菌兵器など作ることも出来なかったと思う。
人体実験のデータもそこまで価値のあるものだったとは思えない。

それでも、実験に関わった者たちがことごとく戦犯として罪を問われていないのは事実だ。
国民には知らされない形で何かはあったのだろう。


「綺麗事ばかりじゃ国は動かせませんからね。」

「だからといって、悪事を黙認していいわけじゃないだろう。」


珍しく寺田総馬が突っかかってきた。
ムスッとした顔をした総馬を和泉は挑発するように見返す。

二人の空気がそこそこにピリピリしたとき、出来上がったラーメンが出された。


「いただきます。」


ぷん、とこってりとした匂いが鼻をつく。
豚骨のいい匂いだ。
こういうガッツリした味が濃いものは偶に食べたくなるよなぁ、と思いながら和泉は食べ始める。

パキッと隣で寺田総馬が口にくわえて割り箸を割っていた。
そんな割り方初めて見た。


「さっきの話だが、うちの国がそんなことをしていたというのは有名な話なのか。」

「そこそこの人は知ってると思いますよ。」

再び寺田総馬は黙り込む。

ズルズルと和泉はラーメンを食べ、彼の様子を見つめる。
認めたくない、とその顔にはありありと書いてある。



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