逆光
和泉がむすっとしていれば、寺田総馬と栗原さんが仲よさそうに話し始めた。
二人がお互いの近況を話し合っている。
よし、と思いこの間に和泉はこっそり退散しようとした、が。
離れようと踵を返した時、ぐいっと、後ろから腕を強く掴まれた。
前もこんなことがあった気がする。
睨みを効かせながら振り向けば、ニッコリと、嫌味なくらいの笑顔があった。
「待ってくれよ。和泉さんに話したいことがあったんだ。」
「私はありません。」
「八万円もしたんだぞ、あの靴。つきあってくれてもいいだろう。話すだけだ。」
「誤解を招く言い方やめてください。私が貢がせてるみたいじゃないですか。」
「実際そうだろう。」
「違います。」
キッと眉間のシワを寄せる和泉と笑顔ながらも威圧感のある寺田総馬。
一層悪くなる空気。
二人の様子に触らぬ神に祟りなしとばかりに栗原さんは「私これから予定があって…」と言うやいなやそそくさと逃げていった。
「逃げちゃいましたよ、彼女。いいんですか。」
「今度何か埋め合わせはするさ。」
ニコニコと笑いながら寺田総馬はそう言った。
なんでこの男は何でもないのに笑うのか。
全く理解に苦しむ。
和泉が黙っているのをいいことに寺田総馬は機嫌よく話を振ってくる。