逆光
子
寺田総馬とイタリアンレストランに着いた時に無性に海鮮系が食べたい気持ちになった。
海老、魚、蟹。
蟹が食べたい。
気持ちのままに渡り蟹のクリームパスタを頼んだ和泉は、運ばれてきた濃厚な匂いに少し機嫌が良くなった。
向かい合って座る寺田総馬はボロネーゼを食べている。
服に飛んだら汚れを落としにくいのによく食べるな、と見ていたら何を勘違いしたのか「一口食べるか?」と聞いてきた。
要らん。
無言で首を振り、それから和泉は気になっていたことを口に出した。
「寺田さんは、頭良いんですよね?」
「……悪くはないだろうがそこそこじゃないかな。」
「でも寺田さんの友人が天才だって言ってましたよ、寺田さんのこと。」
和泉が抑揚もなくそう言えば、寺田総馬は可笑しそうにケラケラ笑った。
その豪快な笑い方に馬鹿にされた気がして和泉はムッとする。
「すまんすまん。馬鹿にしたわけではないんだ。ただ、俺が天才だなんて言われたら本当の天才に失礼だろう。」
本当の天才って。
そもそも天才はどのあたりから天才なのか。
そんなことを思いながら和泉はまったりとしたクリームパスタを口に含む。
蟹の風味が効いててとても美味しい。
「除草剤の開発で評価されたんでしたっけ。」
「よく知ってるなぁ。和泉さんもなんだかんだで俺のこと気になってたのか。」
「敵の情報を集めるのは戦の基本ですよ。」
「俺は敵扱いだったのか。」
おどけてふざけたことを言い出した寺田総馬に冷たい目線を送る。
ハハハ、と肩をすくめて苦笑いをする寺田総馬。
右手のフォークでクルクルとパスタを巻いている。
「まぁ、除草剤のやつは俺の才能とかじゃなくて、諦めの悪さから出来たやつだからなぁ。」
「成功するまでやったんですか?」
「そうだ。雨乞いの儀式も、雨が降るまで儀式を続けていればどんなものでも100%の成功率の儀式になるだろ。」
だから色々と試しながら何千回も実験を繰り返していたら、あれが出来たんだ。
その時のことを思い出したのか、嬉しそうに笑って寺田総馬はそう言った。
「人生は気の長い奴と諦めの悪い奴が勝つからな。なんだっけか、あの大統領夫人になった有名女優も、オーディションに40回は落ちたって言ってたぞ。」
寺田総馬がうーとかあーとか言って思い出そうとしていたが、誰のことを言っているのか和泉にはさっぱり分からなかった。
「はぁ」と適当に相槌をうっておく。