逆光
「和泉はホント、ふてぶてしいな。」
和泉が高校一年生の時、同級生の男子にそう言われた。
他の男とは違い、和泉に対して欲のある目で見てこないし、和泉に何も求めない。
一緒に居たい時は一緒にいるし、居たくない時は居ない。
そんな距離感が心地良くて、和泉はその友人を気に入っていた。
名前は、翔といった。
サッカー部のエースで、童顔だが整った顔。
翔はおそらく、学年で一番モテていた男だった。
「あんたが噂の和泉さん?」
初めて声をかけられたのは入学して3ヶ月ほど経った頃だった。
和泉の下校途中、グラウンドのフェンス越しに。
部活の休憩中だったのだろうか、汗をタオルで拭いながら翔は声をかけてきた。
「なに?」
その時和泉は睨みをきかせ剣呑な声で対応した。
随分と失礼な態度だったろうに、翔は気にした様子もなく「ん、」と声を出した。
「俺の友達があんたの話ばっかりするから、どんな奴かと思って声をかけた。邪魔だったらごめん。」
あぁ、こいつ、あの男共の知り合いか。
ここ数日の迷惑を思い出し、和泉はチッと思わず舌打ちをする。
すると翔は丸い目をぱちくりと開いた後、ハハハハハッと笑い出した。
「なんなの?」
「いや、だって、すごい清純系美人さんだなって思ったのに、初対面の相手に舌打ちって!」
ケラケラと笑う翔は一瞬ただのやんちゃ小僧に見えたが、その細めた目にはそこはかとない男臭い色気が垣間見えて、あぁ、これはモテるな、と和泉は思った。
そこでようやく、女子が時々話題に出すサッカー部の期待の新星の翔くんとやらが目の前の人物だと気付いた。
和泉は翔をキッと睨み付ける。
「知り合いだったら、あの男共に伝えて。私は将来性のない男とは付き合わないって。」
和泉の言葉に翔は「ひでーな、あんた」と笑う。
「迷惑なの。振られたくせに俺は諦めないだとかせめて一緒に写真撮ってくれだとか。気持ち悪い。」
「バッサリすぎていっそ清々しいな。」
悪いな、あいつらあんたに夢見てんだ。
翔はそう言って、まぁ俺がなんとかするよ、と男らしく笑った。