逆光
「それで、今回は何の用があってここに?」
「あぁ、そうだった。会ってほしい人がいるんだ。」
「はぁ。どなたで。」
「俺の友人なんだ。前、和泉さんが言ってただろう。友人の中でも特別な人というやつだ。俺にもいたぞ。」
「………はぁ。」
「誰でもいいわけじゃないんだ、俺だって。」
寺田総馬はやけに自慢気な顔をしているがそんな昔の話をされても、和泉はいまいちテンションについていけない。
というか、まさか初めて会った時に言った言葉をここまで引きずられるとは思わなかった。
誰でもいい人。
なんだかんだで自分でも思ってたんじゃないのか、この男は。
そうじゃなきゃよく知らない女の軽口をここまで引きずるだろうか。
まぁ、どうでもいいか、と思いパスタを一口食べる。
「それと、和泉さんはいつになったらあの靴を履いてくれるんだ?」
「フェラガモのですか?まだ裏張りしてないので。もう少し室内で履いてから裏張りしたら外でも履きますよ。」
「裏張り?」
「靴底がつるつるしてるので滑り止めと、傷み止めみたいなものです。」
フェラガモの靴底は薄いのですぐに爪先部分が壊れると聞いたことがある。
もう家では何度か履いたし今日のうちに裏張りしてしまうかと和泉は思った。
「どんな人なんですか?」
「ん?」
「寺田さんのそのご友人は。」
「あぁ。あいつは、そうだなぁ。賢い奴だと思うぞ。」
「へぇ。」
「でも、いい奴ではないな。」
「そうですか。」
賢いけどいい奴ではない。
寺田総馬にとっての大事な友人には似つかわしくないように思える。
「今度の水曜、そいつの誕生日パーティーだからな。知り合いを何人か招待してほしいって言われてるから、俺は和泉さんを招待するよ。」
「分かりました。ドレスコードとかあります?」
「ないぞ。本当にただの内輪の集まりみたいなもんだから。下品な格好さえしなければ大丈夫だと思うぞ。」
誕生日パーティーに知らない人もどんどん招待するなんて、その人はお金持ちなのか。
どこでパーティーをするのか尋ねれば一等地にあるレストランの名前を言われ、予想は確信になった。
そもそも寺田総馬が裕福な家庭の出身なのだから、その友人も似たようなものだろう。
大学に入る前までは交流のなかった層だな、と思いながら和泉はクリームパスタの最後の一口を食べた。