逆光
黙りこくった和泉と寺田総馬の空気を和らげるように大谷が口を開く。
「俺は和泉さんだったら全然アリなんだけどね。」
「いいですよフォローしなくても。」
「フォローじゃないよ。俺、和泉さんとは結構合うと思ってるし。」
二人で居た時、結構楽しかったんだけど、と大谷は続ける。
だったら。
大谷は一体何を考えているんだ。
和泉の頭はもう怒りやら悲しみやらでぐちゃぐちゃだった。
和泉と付き合ってもいいと思ってるんだったら、なんで今日寺田総馬を呼んだのか。
本当は、彼は何を思っているのか。
和泉がチラリと顔を上げれば、ニッコリと笑う大谷。
「ただ、俺は面倒事がきらいだからさ。友人の想い人と付き合うなんて、それこそ面倒くさそうだし。」
その言葉に、和泉が「はぁ」と相槌を打つのと、寺田総馬がガタッと立ち上がるのはほぼ同時だった。
「大谷っ、おまっ、」
「目立つから座りなよ。」
口をぱくぱくさせて言葉を紡げないでいる寺田総馬を大谷が軽くあしらう。
寺田総馬は何か言いたげな顔をしたまま渋々腰を下ろす。
和泉はというと、大谷が言った言葉の内容は理解していたが、余りにもありえないことだったのでいまいち現実味がなかった。
大谷にからかわれているのかとも思い寺田総馬の方へ顔を向ける。
彼は片手で目元を覆い俯いていた。
「……違うんだ。」
「はぁ。」
「いや、違わないんだがな、本当はもっと別のタイミングで言おうと思ってて……あぁもう、大谷、お前、何で」
「グズグズウジウジ男らしくないですね。要点を簡潔に言うことも出来ないんですか。」
「こっちはいっぱいいっぱいなんだよ!和泉さんは何でこうなんだ!」
耐えられなかったように寺田総馬が少し声を荒げる。
眉間にしわを寄せ焦った顔。
レストランの照明は暗めにされていたが、それでもその顔が紅くなっているのは分かった。
そして視界の端で大谷がクスクスと笑っているのが見えた。
この男完全に楽しんでいる。
キッと和泉は軽く大谷を睨みつけて、この状況はどうすればいいのか考えた。
大谷の言ったことが冗談であればまだ良かったが。
意外なことに本当らしい。
むむっと口を噤む。